ハマボウ 日高川河口

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御坊市の花木 ハマボウ
毎年、7月になると、御坊市塩屋町北塩屋の国道42号沿いや王子川を遡る400メートルの川沿い、日高川河口、天田橋南詰めの東側などの塩水と真水が混じりあう汽水域に市の花木のハマボウが大輪の黄色い花を次々と咲かせてくれます。
御坊のハマボウ群落は県内で最大、全国でも5本の指に入ると言われ、市は昭和43年に天然記念物、平成6年に市の花木に指定しており、かけがえのない大切な市民の一員です。
また、日高川河口にはハマボウ群落のほか、ウモレベンケイガニ、シオマネキなど多様な干潟の動物が見られることから環境省の「日本の重要湿地500選」に選ばれれています。

川と海のはざまに南国のきらめき

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川と海のはざまに南国のきらめき
歌舞伎や能の「娘道成寺」で僧・安珍に裏切られた清姫が蛇の化身として渡る場面で知られる日高川。奥深い紀伊山地の水を集めて紀伊水道に注ぐ川の河口付近は、塩水と真水が混じりあう汽水域となり、砂洲の上には南国ならではのハマボウが大輪の黄色い花を次々と開いていた。西本願寺日高別院の寺内町として発展した御坊の街並みを自転車で抜け、日高川の最も河口近くにかかる天田橋を渡った。橋の上から川を見下ろすと砂洲を覆う緑の中に、鮮やかな黄色い花がところどころに浮かび上がる。ハマボウの群落が河口から1・2キロ上がったあたりまで広がっているのだ。

橋を渡りきって少し河口の方に進んで砂洲に下りた。ハマボウの木は高さ3mくらいが多いが、5mほどに達しているものもある。灰色の幹が根元から七つ、八つと分かれて枝を大きく横に広げていて力強い。花は直径7、8センチでと目立ち、花の中心部とめしべの先が濃いエンジ色に染まっている。ハイビスカス、ムクゲ、ワタと同じフヨウの仲間でも、とりわけ魅力的な色合いの花だ。海に流れ込む河口まで砂洲のところどころに群落が広がる。梅雨の合間の日差しの強い昼前、どこまでも青い紀州の海と川と空、そして夏雲に黄色い花はよく似合う。朝に開いて夕方にしぼみ一輪一輪は一日限りの命だが、途切れることなく次々咲き続ける花に、はかなさはない。日高川本流の河口部には南側から王子川という川も注いでおり、さかのぼっていくと1キロほど上流までハマボウが密生していた。川幅は20mくらいで日高川本流の10分の1もないのだが、根元が流れに洗われ、川に向かって枝を広げる姿は沖縄・西表島の河口で見たヒルギのマングローブ林を思い出させる。

日本特有の植物としてシーボルトが紹介し、学名も「ハイビスカス・ハマボウ」というこの花木が見られるのは三浦半島より西の温暖な海岸部に限られ、近畿では和歌山県だけだ。さらにヒルギ林と同様、汽水域であることが自生地の条件。黒潮が海岸を洗い、日照時間が全国一という気候に加え、広範囲な汽水域を持った日高川河口部は最適の自生地だろう。しかし、河口部は開発にさらされやすいことから全国的にハマボウの自生地は消滅してきた。ハマボウが市天然記念物や市の花木に指定されている御坊でも河川改修や港湾の拡張計画で群落ぐるみ破壊される危機もあったが、御坊市文化財保護審委員で植物研究者の木下慶二さんらの強い保全の声で辛うじて守られてきた。2000年の夏、当時81歳だった木下さんに王子川河口のハマボウ群落を案内してもらったことがあるが、大木を見上げながら「御坊のハマボウは和歌山で最大、全国でも五本の指に入る規模。この価値をもっと知って親しんでもらうようにしたい」と熱っぽく話していた姿が忘れられない。

木下さんは2003年に亡くなったが、王子川近くに住む県自然保護監視員の木村俊夫さんらが群生地の調査を続け、昨年には成木878本を確認するなど保全への取り組みを続けている。日高川河口はハマボウ群落のほか、ウモレベンケイガニ、シオマネキなど多様な干潟の動物が見られることから環境省の「日本の重要湿地500選」に選ばれ、昨年5月には南紀生物同好会のメンバー25人が貝類、カニ類からハマボウの幹に付着するコケ類まで一帯の生物を調査した。会長の元高校教諭乾風(あなぜ)登さんは「貴重なカニ類もハマボウも広い汽水域の湿地があってこそ生息できるもの。開発が悪影響を招かないよう海岸、河口部の自然の保全に県や市も全力をあげてほしい」と呼びかけている。王子川沿いのハマボウは04年秋の台風で大木をはじめ相当が流出したようだが、日高川本流のハマボウは6年前と比べ生息域が広がってきている印象を受けた。ただ、河口部には相変わらずペットボトルなどのゴミがハマボウの根元に堆積するなど「重要湿地500選」にふさわしくない光景も見られる。市の天然記念物指定域も王子川の洲の一部に限られるなど、まだまだハマボウの将来には不安が残る。「指定地域に限らず、ハマボウをはじめ河口の自然を港湾計画の中でも一体として活用できるようにしていきたい」(久貝健・御坊市教委文化振興係長)という積極的な保全策の具体化を期待したい。長い歴史と伝承に彩られた日高川の河口の夏はハマゴウなど他の海浜植物も見られ、さまざまなカニが歩き回る。ハマボウも生命があふれる河口のかけがえのない一員だ。

(小泉 清氏)(2006年07月15日  読売新聞)